皮膚と鍼について

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<目次>


2.緊張


東洋医学ではアンバランスな状態を「虚実(きょじつ)」と呼んでいます。
実感しやすいところでは、

 ・筋肉(緊張/弛緩)
 ・思考や感情
 ・感覚

などがあります。

アンバランスな状態自体は身体的もしくは物質的な刺激への対応、環境への適応のために必要です。
しかし刺激がなくなってもニュートラルな状態に戻らない場合、その刺激への反応状態が少しずつ固定化していきます。

それは「感じたこと(記憶)」を「感じていること」として処理している状態です。
新たな情報を得て変化・対応すること(学習・適応)が部分的(一時的)にできなくなります。
外界との境界である体表は反応の門であり、そういった固定化の要です

固定化は境界を部分的に閉鎖します。
皮膚感覚の知覚が部分的に障害されて(盲点となって)、心身の現状認識が部分的に(もしくは特定の状況において)滞ります。
そして心身の偏り(疲れ)を回復するはたらきが鈍り、分離の感覚や不安が生じます。
強いストレス(ショック)や持続的なストレスは生まれ持った傾向(素因)の上に積み重なり、条件付けとなって影響を及ぼし続けます。
それは治癒力を妨げるとともに、それ自体が心身に症状となって現れてきます。

運動面では身体イメージが部分的に妨げられ、過度な筋緊張が続きます(繰り返し出てきます)。
筋肉と皮膚の緊張・弛緩が適切な状態(位置)からズレています。
それは動き方、姿勢や重心、関節の位置などに影響を及ぼし、身体のコリや動作制限、疲れやすさや慢性疲労、冷え(血流障害)などが出てきます。

精神面では感じ方や考え方が偏り柔軟性が失われていきます。
自己イメージが不安定になることで、周囲(他者)との間に適切な境界を設定できなくなります。
ストレスを溜め込みやすくなり、イライラや不安、劣等感や依存性、傲慢さや攻撃性、衝動性などが表れてきます。
反対に自発性や自立性、考え方や動き方の柔軟性、楽しさ、存在している実感、肯定感などは損なわれていきます。

しかし習慣化され、変化しないものは次第に意識できなくなります。
そして緊張状態が自己イメージの一部となり、それを維持・存続・拡大させようとする強い力がはたらきます。
(自己イメージも対象ですが、そのように認識できないイメージが緊張となっています)
そのため緊張に気づき、解消することが出来ません。

外部から緊張を本質的に変化させる試みは自己イメージが脅かされるように感じるため、それがたとえ治癒のプロセスであっても反発や抵抗が生じます。
刺激に反発できない場合は無力感や自己否定感情が生じますし、 問題を一時的に感じなくさせる麻痺刺激に対しては依存が生じます。
(よくなっている実感がないまま電気治療や強いマッサージに長期間通い続ける人は多いです)。
そういったことを繰り返すことで緊張は更に強固になり、対象として観察や検証をすることが困難になります。

他者から「姿勢が悪い」と指摘されても意味がないばかりか悪化するのはそういった例のひとつです。
それらのやり方は『北風と太陽』のお話に出てくる北風のようなものです。
注意の焦点を強制的に変えることで症状が一時的に変化したように感じても、目的とは反対の結果を招きます。
単に気持ちよい刺激=快感でもありません。
それは感覚(記憶)への新たな執着となって緊張を生み出します。


緊張を解除する糸口は境界である体表(皮膚感覚)にあります。
周囲(他者)とのストレスやショックから緊張していたり疲弊していたりする境界(体表)に応じた刺激が必要になります。
おなかがが弱っている時に刺激の強い物を食べても更に胃腸が弱っていくように、緊張状態で弱っている体表への強い刺激は禁物です。
(体表も消化管も外界との境界です)

体表のツボへの明確に認識できない鍼刺激によって、ツボ自体が変化して全体に波及していきます。
緊張(不注意)で閉ざされていたツボは注意深く見守られること(集中)で緊張が解け、適応のための新たなチャレンジ(学習)をはじめます。
刺激を明確に認識できず、意識できないところで変化が起こるため、自己イメージを存続させようとする働きに干渉されません。

変化に気づくまでに間(ま)が生じ、その後現在の状態を再認識します。
身体の変化で最初に意識するのは多くの場合、筋緊張です。
それまでの状態との差異を感じとること(識別)によって、意識できなくなっていた緊張状態を認識できます。

生じた変化はその後、習慣の根強さや識別力や集中力との関係に応じて元に戻されます。
しかし、続けていくことで識別力や集中力が高まり、無自覚に行っていた緊張の習慣(パターン・傾向・癖)を対象としてより明確に認識していきます。
そして認識や理解が深まることで緊張の習慣は次第に弱まっていきます。
緊張の程度が軽くなり、解消するのも早くなります。

慢性的な症状の場合は元の状態に戻ろうとする力も強く、行ったりきたりする時期や一時的に退化する時期もあります。
それでも長い目で見れば、続けていくことで少しずつ変化していきます。


緊張に気づき、「今はそのように力を入れている必要がない」と理解することが慢性的(習慣的)な緊張を少しずつ解いていきます。
体表の鍼治療はそのサポートであり、慢性的な緊張から心身を解放していくためのトレーニングです。





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“脱皮できない蛇は滅びる”

  ニーチェ 「曙光」より

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