皮膚と鍼について

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<目次>


4.ツボ


当院ではコリ(硬結)や圧痛点に鍼をしていません。
訓練された手の感覚などを基に、体表のツボを探して鍼をしています。
その位置は教科書通りのこともあれば異なる場合もあります。
ツボは様々な要因で変化するので、その時その場の観察が重要となります。
同じ病名でもツボへの現われが異なったり、異なる病名でも同じツボに反応が出ることもあります。
そのため「この症状にはこのツボ」などと一概に言うことはできず、基本はあってもマニュアル化することができません。
自分が南谷先生に学び始めた時にまず戸惑った点です。

基本的に、体表の鍼は刺す鍼やマッサージや指圧とは異なる技術です。
たとえそれらの技術があっても、まずはじめは体表のツボを感じ取ることができません。
内部のコリや圧痛点を探したり、理屈主導で考える習慣が残っている間は、意識の焦点が皮膚に合わなかったのか手が固かったのか、ツボは分かりませんでした。
鍼を刺すことや強い圧をかけるマッサージや指圧などを完全にやめて探し続けて、少しずつそういった体表のツボを感じ取れるようになっていきました。
水面に浮かぶ木の葉を探すような感じで、体表を強い刺激で乱すと分からなくなります。
時間と労力をかけて暗中模索するしかありませんが、誰でも訓練を積み重ねていくことで少しずつ体表のツボを感じ取れるようになっていくと思います。
自分の場合は先生に直接的に方向性を示してもらうこと(自分と家族で鍼施術を継続して受けて効いたという事実)が何より壁を越える大きなサポートになりました。
南谷先生の勉強会は同じく岐阜の宇野先生に紹介していただいたのですが、宇野先生に「あなたの年齢の頃には自分は既に鍼治療や脈が分かっていた。その年齢からだと辛いぞ。」と言われてました。
遅くからはじめた自分にとって、直接施術を受け続けたことは大きな要素だったと思われます。

そして体表のツボは無理やり反応させることができません。
体表(皮膚表皮)のツボを感じ取って鍼をしても、その技術が適切でない場合ツボは反応しません。
明確に意識されない微細な鍼刺激であり、閾下知覚の領域です。
体表(皮膚表皮)の特異なポイントであるツボは、意識できない(抑圧している)心身の問題と結びついています。
そして問題が大きいほど臆病になって引っ込んで閉じています。(特にそれまで自分の境界を無視されてきた人は頑なになっていきます)
敏感に刺激を感じ取って判断しており、皮膚(境界)の存在や役割を無視した刺激をすると問題が拗れて悪化していきますし、境界を侵害しようとする気配だけで更に固く閉じていきます。
自分もそうでしたが、それまで鍼を刺していた場合、刺す(境界を侵害しようとする)気配が本当に抜けるまで時間がかかります。
それは自然栽培や自然農法を始めても、それまで使用してきた農薬や化学肥料の影響が農地から抜けるまで何年もかかるのと似ていると思います。
習慣の変革はとても大変な作業です。
また、単に「皮膚への気持ちよい刺激=快感」であればよいというわけでもありません。
そういった刺激は皮膚感覚の記憶への執着を生じさせ、新たな緊張となります。

体表のツボ(皮膚感覚)は権威や虚飾で誤魔化すことはできません。
鍼を刺す、皮膚を強く押す(揉む)、お灸で焼く、電気刺激などとの併用や、「この人には刺す、この人には刺さない」などもできません。(自分の場合)
体表のツボはその存在に気づいて、その状態に応じて適切にはたらきかけることで開きます(反応します)。
施術者の手がツボに自然に感応するようになり、それに応じた鍼をするようになっていきます。
はじめは考えながら行っていたことが、ほとんど意識しないで行うようになり、その後で「なぜそのツボに反応が出ていたのか」などの検証をするようになっていきます。

注意すべき点として、体表のツボに鍼が触れて静かに反応が生じるのを待つ間、緊張が施術者に伝わってきて自身も緊張することがあります。
それが積み重なると疲れていきます。
(対人援助職(感情労働)における共感疲労と似ているかも知れませんが、とても直接的であり、刺す鍼や強く揉むマッサージをしている頃はそういった疲れをそれほど感じませんでした。)
特に学び始めの内は、そういったツボから伝わってくる緊張を意識的に解消することが必要になります。
それも、ある種の技術です。
続けていくとそれほど意識しなくても自然に緊張が解消していくようになっていきます。
あわてず、静かに見守ることが重要です。


体表のツボは自然の成り行きとも言えます。
心身の調子が悪くなると疑心暗鬼になって慌てたり、自分や他者を責めたり、あれこれ考え過ぎて更に悪化させてしまうことは多いです。
しかし、大切なのはまず気持ちを落ち着かせることです。
堂々巡りを止めて適切な判断をするため、そして治癒力をはたらきやすくするため、ツボをはじめ身体や心の状態、そして生病老死を自然の成り行きと観る視点は有効です。
その基本は身体を自然であり小宇宙とする東洋医学です。
施術者側もその視点がないと「間違いを矯正する」「自分が治す」などといった考えに陥っていきます。
それは不要な力みとなり、逆に治癒力を制限してしまいます。
そういった力みを解消するためにも、施術者もツボの状態を自然の成り行きとして受け入れることが大切になります。

東洋医学は漢字という表意文字で、そして陰陽や五行をはじめシンボルやメタファーを使って表現されています。
それは言語や地域を超えて東洋医学が広まるのを助けただけでなく、施術自体にも影響します。
感じ取った情報を通常の話し言葉に変換して理解しようとすると限定されてしまいますが、シンボルやメタファーは身体という自然を直観的に理解するのを助けてくれます。
それらは「あなたは○○です」などといった当てものの道具ではなく、非言語コミュニケーションを助けるツールです。
体表の鍼治療はツボを相手としたコミュニケーションであり、どれだけ科学が発達しても陳腐にならない実践的な療法です。




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“もっとも偉大なのはメタファーの達人である。通常の言葉は既に知っていることしか伝えない。我々が新鮮な何かを得るとすれば、メタファーによってである”

  アリストテレス 「詩学」より

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